今回は、車のエンジンを分解し、各部品を交換し、組み付けていく際の注意点を解説していきます
この記事を書いている私自身の紹介を簡単にしますね。約20年の整備士歴の今でも現役のエンジニアです。乗用車・トラック・バスの整備に携わってきました。現在は、大型車をメインに整備を行っています。(詳しくは、こちらを参照してみてください)
では、解説していきます(下記の記事は、トラック・バスを基準にして書いています)
【エンジンを分解する】
まず、エンジンを分解するにはそれなりの知識と工具・設備が必要になってきます
正直、素人や新人整備士では分解するのはかなり難しいと思います
バイク等ならちょっと調べれば分解出来るとは思いますが車のエンジンはかなり難しいと思います
整備士の中でも自信が無い人は整備解説書で勉強して、調べてから作業を行います
1⃣分解の種類
エンジンを分解するといっても2通りのパターンあります
それは、エンジンを車両から取り外すのか、そのまま車両に載った状態で作業をするのかです
何で決めるかというと、エンジンをどこまで分解するかによって変わってきますね
シリンダーヘッドガスケット交換やピストン交換等の作業では車両に載った状態で作業を行いますが、タイミングギヤやクランクシャフトの交換等の作業ではエンジンを取り外さないと作業が出来ません
トラック・バスの場合は、車両に載った状態で作業をする事の方が多いかと思いますが、乗用車では取り外す事の方が多いかもしれませんね(※乗用車の整備は15年以上前なので今はほとんど分かりません)
まぁ、正直エンジンをおろしてから作業した方がやりやすいですが、その分取り外さないといけない部品が多くなるのでその分作業の時間がかかってしまいますね
2⃣必要な工具・設備
分解するにあたって必要になってくる工具はたくさんあるとは思います
色々な種類の工具があれば、その分楽に作業が可能になりますが全てを揃えるのは金銭面的に苦しいと思いますので、最低限必要である工具を紹介します
- フォークリフトか天井クレーン
- ガッチャ(レバーホイスト)
- アイボルト
- ギヤプーラー
- ピストンリングコンプレッサー
- ピストンリングプライヤー
上記の工具・設備が無いと分解するのはかなり厳しいと思います。整備士の手持ち工具は持っているのが当たり前なので入れません
①フォークリフトか天井クレーン
これは、シリンダーヘッド・エンジンASSYをおろすのに必要になってきます
シリンダーヘッドなら数人で持てば、おろす事は可能ですがエンジンASSYの場合は必ず無いと下ろす事は不可能ですね
シリンダーヘッドも中型車までは二人でもいけますが、大型のシリンダーヘッドとなるとかなり重いので大変です。車両のタイプによって人力でしかおろすことが不可能なものもあります
②ガッチャ(レバーホイスト)
エンジンやシリンダーヘッドをおろす際に、エンジンの前後に引っ掛けて吊り上げます
エンジンハンガーがあればそこに引っ掛けます
ワイヤーでも良いのですが、ガッチャの方が長さの調整ができるのでエンジンやヘッドを水平に上げる事が出来ます
あと、あまり安物だと使い勝手が悪かったり、ラチェット部がすぐに壊れてしまいます
1万円以下の物をネットで購入して使用しましたが、全然使いにくくダメでした
③アイボルト
上記のガッチャとセットで使用します
シリンダーヘッドをおろす際にヘッドにつける事によってガッチャが引っ掛けられるようになります
これがあれば非常に便利で使いやすく、シリンダーヘッドもおろしやすいです
だいたい、8×1.25のサイズの物があればシリンダーヘッドのどこかしらに付ける事が出来ると思います
④ギヤプーラー
ギヤを取り外す際に使用します
圧入されているギヤの場合、プーラーが無ければ取り外す事が難しいですね
レバー等で押さえて外れれば良いですが、圧入されているギヤはそう簡単には取れません
⑤ピストンリングプライヤー
その名の通り、ピストンリング交換の際に使用するプライヤーになります
小型〜中型のエンジンのピストンリングなら無くても大丈夫だと思います
しかし、大型車のピストンリング交換なら、普通のプライヤーよりも大きく開く為に簡単に出来ます
⑥ピストンリングコンプレッサー
ピストンをシリンダーライナーに入れる際に使用します
これが無かったらピストンを入れるのがかなり困難ですね
しかも、正確にピストンにあったサイズの物を使用しないとすぐにピストンリングが破損してしまいます
私も何度か破損させてしまいました。特にオイルリングが破損しやすいので注意が必要ですね
3⃣知識
まずは、今から分解するエンジンの構造を理解する必要があります
YouTubeやSNS等でも調べれば、今の時代分かるかもしれませんが一番確実なのは、整備解説書を見る事です
もしくは、メーカーやディーラーに問い合わせたら教えてくれると思います
何も分からない状態で分解すると取り返しのつかない事がおこるかもしれないので絶対にやめましょう
4⃣分解
では、分解していく方法を解説していきます。
①シリンダーヘッド取り外し
まずは、シリンダーヘッドを取り外す方法を解説します
- エンジンの冷却水(LLC)を抜く
- インテーク側・エキゾースト側を取り外す
- センサー・配線を車両より切り離す
- エンジンの前側を取り外す
- シリンダーヘッドの上部を取り外す
- インジェクターを取り外す
- クランクシャフトを回して、ピストンNO1圧縮上死点に合わす
- カムシャフト・ロッカーアームを取り外す
- シリンダーヘッドを取り外す
だいたいこんな感じで取り外していきます。ここからピストンを交換するのならオイルパンを取り外して、ピストンを抜く作業になります
書いているだけでは簡単ですが、それなりに時間がかかる作業になります
②エンジン取り外し
次に、エンジンを車両より取り外す工程を説明します
- バッテリーのマイナス端子を取り外す
- エンジンオイル・冷却水(LLC)を抜く
- T/M or A/Tを取り外す
- 必要ならラジエーターを取り外す
- オイル・冷却水・エア関連のホース・パイプを全て取り外す
- エンジンのメインハーネスを車両より切り離す
- 必要ならキャブアーチを取り外す
- エンジンを取り外す
シリンダーヘッドを取り外す工程とは違って、色々な部品を取り外さないとエンジンを取り外す事は出来ません
③タイミングギヤ
タイミングギヤは、メーカー・車種によって取り外し方が様々です
エンジンを取り外し場合もあれば、車両に乗った状態での作業になる場合もあります
シリンダーヘッドも取り外さないとダメな場合もあるし、取らなくても良い場合もあります
【交換】
ガスケット類の交換やピストン・ピストンリング・ライナー交換、ギヤの交換、各部のメタルの交換等があります
交換する目的は、オイル漏れ、圧縮不良、オイル上がり、オイル下がり、水漏れといった不具合の際に実施します
後は、全く不具合が無くても予防整備として交換する場合もあります
最近では、分解はせずにリビルト品(完成品)にASSYで交換する方が増えてきましたね
【組み付け・注意点】
ここからが、整備する上で1番重要な点になります。取り外しや分解は適当にやっても出来ますが、組み付けとなるとしっかりやらないと、再発したり最悪の場合はエンジンが破損してしまう原因になります
なので、しっかりと理解してから組み付け作業を実施して行きましょう
1️⃣シリンダーヘッドガスケット交換
エンジンを分解する整備の中で、1番多い作業になるのがシリンダーヘッドガスケットの交換作業になると思います
組み付け順序は、取り外したのと逆の手順で組み付けていきます
では、何に注意しなければならないのか?
①カムシャフト
まず、分解する際にピストンNO1の圧縮上死点に合わせたと思います
これは、カムシャフトを取り外す作業があるからです(※オーバーヘッドカムシャフトの場合)
カムシャフトを取り外すと、付ける際にどこに合わせて組付けたらよいのか分からなくなってしまいます
カムシャフトにはピストンNO1圧縮上死点のみ合わせるマークが存在します
なので、ピストンNO1圧縮上死点にする事によってカムシャフト位置が分かります
ここがずれてしまうとタイミングがずれてしまうので、エンジンがかからなくなりますので注意が必要です
②規定トルク
エンジン各部のボルト・ナットには規定トルクが存在します
しっかりと今締めているボルト・ナットのトルクを調べてから締めましょう
トルクで締める箇所や塑性域(そせいいき)で締める箇所があるので、間違わないようにしっかりと締めましょう
締め忘れの無いように確実に締めましょう
ボルト・ナットの締め忘れによって、オイル漏れ・水漏れにて再修理するのが1番多いですね
③当たり面の清掃
部品と部品との間には、ガスケットや液状ガスケット・Oリング等が入っています
古いガスケット等をしっかりと除去しないと、そこから漏れてくる事がありますので、しっかりとスクレーパーで清掃しましょう
昔は、スクレーパーでキレイにした後に更にサンドペーパーで仕上げてましたが、今はそれをやると逆にエンジンが壊れてしまう原因の一つになるので禁止になっています
④バルブクリアランス
カムシャフトやロッカーアームを取り外したら、クリアランスの調整が必要です
クリアランスを適切に行わないと、異音の原因になります
エンジンの型式によって、バルブクリアランスは様々なので間違わないようにしっかりと調べて、シックネスゲージで調整しましょう
2⃣エンジン交換
エンジンASSY交換作業は、そこまで注意する箇所は無いですが、エンジンを吊り上げる際に注意が必要です
しっかりと吊り具をかけて、エンジンを水平に上げていってください
エンジンが少し浮いたら、1回止めて大丈夫か確認が必要です。過去に私の会社の先輩でエンジンを吊り上げた瞬間にエンジンが落ちた事がありました
その原因は、吊り具の耐荷重が足りなかったために吊り具が壊れたのが原因でした。エンジンが浮いてすぐに壊れたので大惨事にはなりませんでしたが、一歩間違えれば大変な事になっていたと思います
エンジンは非常に重い物になります。大型のエンジンになると300キロ以上の重さになると思いますので、吊り具が大丈夫か確認しながら作業を行いましょう
3⃣ピストン・ピストンリング交換
ピストン・ピストンリングを交換する際の注意点は、ピストンリングにはトップ・セカンド・サード・オイルリングとそれぞれ役割が違っているのでピストンに組み付ける際には間違わない様に付けましょう
上下の決まっているので確認しながら付けましょう
ピストンリングをピストンに付けたら、ピストンをエンジンに入れていきますが上記でも説明した通り、ピストンリングコンプレッサーが無いと付けるのは厳しいと思います
そして、付ける際には特にオイルリングが壊れやすいので注意が必要です
それと、全てのリングの合口が違う方向になるようにセットして下さい。同じ方向だと圧縮漏れやオイル上がりをおこしてしまう可能性があります
ピストンは入れる向きも決まっています。クーリングジェットと呼ばれる、ピストンにオイルを噴射するノズルが付いています。ピストン側にもクーリングジェットから噴射されたオイルが入る穴が空いているので、その位置を間違わないように取り付けましょう
4⃣タイミングギヤ
タイミングギヤを自体の分解は簡単ですが、組み付ける際には全てのギヤの位置が正確に合っていないとエンジンがかかりません
全てのギヤには合わせマークが付いています。メインギヤ・メインアイドラギヤ・サプライポンプギヤ・カムシャフトギヤといった感じでその全てのギヤの位置を合わせながら組付けていきます
そのギヤのブッシュにはオイル穴が空いているので、その位置も間違わないように付けないとブッシュが焼き付く原因になります。
全てのギヤを組み付けてから、クランクシャフトを2回転させて下さい。スムーズに回ったら正常に組付けられている。もし仮に間違っていれば途中で回らなくなったり、異常にクランクシャフトがおもくなったりします
【まとめ】
エンジンを分解する際は、色々な箇所を注意しなければなりません
今から分解する箇所を勉強し・調べてから作業を行いましょう
分解するにはそれなりの工具も必要となってくると思いますので、前準備をしっかりと行ってから行いましょうね
間違えて組み付けてしまうと、取り返しのつかい事がおこったりします
エンジンかかからなかっただけなら良いのですが、最愛の場合はエンジンを交換しないとダメになってしまいますので、慎重な作業が求められます
今の整備士は、修理というよりは交換屋になっている整備士が多いと思います。分解して修理するよりもASSYで交換する方が早くて楽だからです。
その分、修理金額が高くなってしまいます。
お客様は、値段を取るのか・修理時間を取るのかを選択しなければなりません
こんな時代なので、色々な選択肢があっても良いとは思います
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